2025年4月13日から10月13日まで、大阪で国際博覧会(万博)が開催される。脱炭素が求められる時代であり、計画の比較的早い段階から「EXPO2025グリーンビジョン」として、温室効果ガス(GHG)の排出量を推計し、削減するための施策が進められている。そのビジョンの中で、万博に伴って排出されるCO2は431万トンであることが示されている。これは、50~100万人規模の都市の年間CO2排出量に相当する量となる。
なぜこれだけの大量の排出量となっているのか、どう考えたらいいのかを読み解いてみる。
元資料
- EXPO2025グリーンビジョン(2024年版)
- 川島崇利,大阪・関西版パックの概要と脱炭素に関する取り組み,エネルギー・資源 Vol.45 No.6, pp8-11,2024
1.会場内の電気・燃料消費
万博では、水素の利用やカーボンフリーの電気を使用するなど、脱炭素の対策が予定されている。それらの対策をしなかった場合の、会場内の電気・燃料消費などによるCO2排出量が試算されており、期間中の排出量は3.4万トンとなっている。
排出量が多いことは間違いないが、のべ2820万人が来場して楽しんでいくことを考えると、単純に多いと言えるわけではない。
ただ留意すべきところは、文頭に示された431万トンからすると非常に小さい値となっている点である。
いままでのCO2排出量の計算では、消費するエネルギー(燃料・電気)の消費量から求めていた。これら直接利用するエネルギーのCO2はScope1,2と位置付けられており、3.4万tはその値となっている。これに加えて、製品の製造や利用・廃棄など自社以外で排出されるCO2も無関係とはいえず、これらはScope3として整理されている。Scope3は、事業者においても把握が求めらるようになっているが、まだ公表されている事例は少ない。万博においては、施設建設・廃棄・来場者の移動・宿泊など、関連するCO2排出量を求めているのが画期的である。
いままでの排出量計算では見えなかった、「意外と多く排出している部分」が見えてくるのが面白い。
環境省:サプライチェーン排出量
2.会場内の建物・インフラの建設
Scope3にはいろいろな種類があるが、まずは施設建設関係のCO2である。日本のCO2排出量の中でも、鉄鋼生産やコンクリートに関する排出は特に多い。道路建設や建造物の建設などにおいて、大量の鉄鋼・コンクリートを使用することもあり、必然的にCO2排出量は大きくなる。
万博でのインフラ・建造物に関するCO2排出量は、80.3万tと推計されており、会場で消費されるエネルギーによるCO2の20倍以上となっている。特に半年で壊してしまう建造物のために、これだけのCO2を排出するというのは、大きな無駄と言わざるをえない。
既存のCO2排出の推計であれば、工場や自社ビルを建設したり、製品の部品を製造するときに排出するCO2は、別の会社(鉄鋼業やセメント業界など)の排出量としてカウントされてきたので、建てる人はCO2の認識はほとんどないであろう。
都市をスクラップアンドビルドすることばかりが優先されるが、長く維持していくことを視点に改良していくことも重要な視点となる。
ただ、これでも当初に示した431万tと比べると小さい。
3.では、いちばんの原因は何か?
最大の原因は、来場者の移動・宿泊・飲食に伴うCO2 で、315万tと全体の約4分の3を占める。特に大きいのが、海外からの来場客の飛行機移動となっている。
計算の根拠が示されていないので、再現はできないが、おおまかな計算でこの程度の排出になることは検算できる。
海外からの来場者が350万人(見込み)、飛行機の平均移動距離は往復で1万km、飛行機移動のCO2排出は、109g-CO2/人kmとすると、382万tとなる。万博のためだけに来日してそのまま帰る人もいないと思われ、多少の割り戻しをしたら、おおむね妥当な値とみなせる。ちなみに国内移動は10万t程度と推計され、いわゆる国際航空移動がどれだけ負荷が大きいかがわかる。
「海外からの来日を促す」ことは、日本の限られた成長手段として推進されているが、それが気候変動問題とは逆行していることは、あまり認識されていない。
ちなみに、政令指定市の静岡市(人口69万人)のCO2排出量が499万t、浜松市(79万人)が494万t、相模原市(73万人)が372万tであり、100万弱の都市の年間排出量に相当している。これらの政令指定市が、細かい対策を積み上げてゼロカーボンまでがんばったとしても、万博ひとつ実施するだけでチャラになる。
4.万博での脱炭素
Scope1,2の3.4万トンに対する対策については、カーボンフリーの水素や電気を活用するなど、先進事例として宣伝的に列挙されている。建設にあたっても、リサイクル建材の利用など、一部を減らそうという対策が試みられている。
しかし、そうした対策も、海外旅行者の飛行機移動が出てくると、かすんで見えてくる。それでも削減するためにと、「食べ残しゼロ」「マイボトル」などのチャレンジを求めるというのも、対策の難しさを伝えている。ちょっと桁が違いすぎ、排出と対策が合致していない。万博を機会に意識を高めてもらうことは応援したいが、せっかく排出量を計算したのであるから、これを提示して「何をすべきか」を考えてもらうのが一番大切ではないだろうか。
5.京都市は、訪日観光客でCO2がどれだけ増える?
少し心配になったのは、京都議定書で温暖化対策先進都市と位置付けられるようになった京都市である。最近は訪日観光客でごったがえし、オーバーツーリズムとしても問題とされているが、京都市の基本的な姿勢は、もっと来て楽しんでもらいたいということのようである。CO2が増えることには目をつぶったままである。
さて、京都市は人口146万人で2022年のCO2排出量は607万tである。令和5年度京都観光調査では、京都市の観光客数は5000万人のうち、海外宿泊客は535万人で平均2.18泊しており、日帰りの海外観光客も173万人いる。京都は日本の主要な観光地ではあるが、他の都市も観光して回るのが一般的であり、日本の宿泊日数のうち京都観光をする日数で割り戻して、「京都観光相当分の飛行機移動CO2」を算出するのが妥当であろう。
観光庁の「訪日外国人の消費動向2023年度報告書」では、2489万人で平均10.1泊している。人数比では訪日外国人の3割が京都観光をしている。ここでは宿泊日数比を用いて、京都宿泊者について、飛行機移動の約2割を京都分として割り戻した。また、日帰り客は1日相当とした。ちなみに、アジアが約5割、残りが北米・ヨーロッパ・オセアニア等となっている。地域別の重みづけをして、日本との往復の飛行機の平均1人あたりCO2排出量は1,101㎏となった。
京都市の訪日観光客の、飛行機移動に関するScope3は、およそ146万トンとなった(国内移動は含まない)。ちなみに国内旅行客は21万トン(市内移動は含まない)となっている。観光客移動のCO2は、市内排出量の2割に相当する。
コロナ後で経済が活性化したのは好ましいことではあるが、コロナ中から2割増えたことになる。その分も含めて減らすことを検討してはじめて、京都議定書発効の地として評価されるのではないだろうか。
Scope3を考えることで、違った視点での対策が見えてくるのは面白いところである。