太陽光発電が安くなっている仕組み

投稿者: | 2019-06-10

  地球温暖化問題は、社会経済の基本となるエネルギーに直結する問題で、石油や石炭などの化石燃料を使わないようにすることが求められる、環境問題の中でもラスボス級の解決困難な問題とされてきました。その大きな解決に踏み出したとされる1997年に合意された京都議定書でも、途上国はもとより米国や中国も参加せず、世界全体の5分の1の排出量を出す国の取組みにとどまってしまいました。
ところが、ここ数年で状況は大きく変わっています。2015年にはパリ協定が合意され、中国や米国の支持もあって2016年に早々に発効しました。途上国も含めて(アメリカは不透明だが)世界全体が脱炭素に向かって動き出しています。CO2削減の政策をどちらかといえば足を引っ張ることが多かったビジネス界でしたが、現在では名だたる世界企業が、先をいそいでRE100への参加表明を行い、再生可能エネルギーのみで事業を成り立たせると宣言している状態です。
その大きな立役者となっているのが、風力発電と太陽光発電です。現在のところ、大型風力発電のほうが発電単価が安いとされていますが、太陽光発電もそれに追いつく勢いで価格低下が進んでいます。日本の火力や原子力の発電単価が10円/kWh程度とされている中で、中東のアラブ首長国連邦(UAE)で建設が進んでいる太陽光発電では、3円/kWhの単価ともいわれており、火力発電所や原子力発電所よりも競争力のある発電になりつつあります。
再生可能エネルギーが普及することは、望ましいことには間違いありませんが、なぜここまで安くできたのか、どうしても不思議でなりませんでした。そこで、資料をさぐってみました。
 

 太陽光発電システムの価格変化

太陽光のコストの見通し
1993年の家庭用太陽光が出始めた段階では、1kWあたり370万円(3kWで1000万円を超える)もしていた太陽光発電ですが、2018年時点ではおよそ10分の1以下の1kWあたり32.2万円の設置費用(新築:資源エネルギー庁資料p52)まで下がっています。

 パネルそのものをみても、50枚以上の大量購入限定ですが、250Wのパネル1枚が税込み16,200円(楽天市場)という価格で出回るようになっています。我が家のベランダには75Wの太陽光パネルがバッテリーに接続されており、部屋の照明に使っていますが、これを購入した2001年9月時点で53,000円ほどしました(これでも相場の約9万円より安かったのですが)。パネル単価としても20年で10分の1近くになっているようです。
資源エネルギー庁の提示している検討資料(2018年8月)でも、事業用太陽光発電の価格は、2017年実績が17.7円なのに対し、2020年には14.6円、2025年には6.2円、そして2040年には3.7円と破壊的とも言える価格低下を見通しています。火力発電や原子力発電の発電原価が10円/kWh程度なので、ここまできたら、むしろ火力発電や原子力発電を維持しているほうが足手まといということになってきます。
しかし、今まで下がってきたのは事実として、将来も本当にそこまで価格が下がるのでしょうか。この鍵を握っているのは、コストの半分近くを占めている太陽光パネルの価格になるのでしょう。

発電1kWhあたり3円?

さて、実際に太陽光発電システムを設置するにあたっては、太陽光パネルだけでなく、土地管理費や、パワーコンディッショナー代、工事費などいろいろかかるところですが、大きな割合を占めているのは太陽光パネルで、家庭用システムでは6割、事業用システムでは約5割を占めていると推計されています。
単純に、先ほどの250W16,200円ぽっきりのパネルを使って計算してみましょう。1kWのパネルで1年間に発電できる量は約1,000kWhとされています。20年間発電ができるとすると、250Wのパネルでは250kWh×20年=5,000kWhの発電ができます。これが16,200円ですから、16,200÷5,000≒3.2円/kWhとなります。もし家庭で全量をそのまま使うことができれば、現在の家庭用電気の最も高い単価は30円/kWh近くしますので、2年でもとがとれて、あとは放置していてもお金を生み出す装置となるわけです。3円は原価としても、火力や原子力よりも安くできそうな価格になっていることは事実です。

畳よりも安い太陽光パネル

太陽光パネルといえば、電気を生み出してくれる魔法の装置のようなもので、道端にでも置いておけば盗まれる心配を考えてしまうかもしれませんが、値段的には日用品に近い価格になってきています。
昔ながらの藁を使った上質の畳では、1畳分で2万程度しています。先ほどの250Wの太陽光パネルは1.6m×1mですのでおおむね畳1枚と同じ大きさですから、ほぼ畳を敷き詰めるよりも安価で太陽光を敷き詰められる時代になっているのです。1枚板でできたテーブルなどは数万円は下らないでしょうが、それよりもはるかに安い値段になります。アルミサッシ1枚と同じ大きさで、それよりも安いといったほうが実感がわくでしょうか。

どこまで安くなる?

国をはじめ、世界の研究者の予測でも、さらに太陽光パネルの価格は下がるとされています。1997年の京都議定書が合意されたころは、「半導体をつくるシリコンの端材を使って安く太陽光パネルが作られているので、大量生産がされる頃には、端材が足りなくなり、太陽光のためのシリコンを生産する必要が出てくるために値段があがる」という話もありました。実際どんなものなのでしょうか。
もともとのシリコン(Si)自体は値段が安いものです。土の組成として最も多く占めている金属元素で、砂利やガラスなどに取り切れないほど含まれています。もっとも、太陽光パネルの品質である99.9999%(9が6つ)まであげようとすると、最初から品質の高い鉱石を使うことになります。
シリコン441と呼ばれる99.0%の品質のシリコンの市場取引価格は、2500ドル/トン程度で、2008年ころから大きな変化はありません(TAK Trading)。1㎏あたり300円といった程度ですから、アルミニウムよりやや高めで、銅の半分程度の価格です。身近なところ言えば、100gあたり30円の超お値打ちの鶏肉といった程度になります。
これが、精製を続け、99.9999%の太陽光パネル品質のシリコンとなると65,000ドル/トンにもなります。およそ1kgあたり7,000円。これは100gあたり700円ですからそこそこ高級牛肉といってもいいかもしれません。ちなみに、多結晶シリコンでも原料に使われているシリコンインゴットのくずについては1000円/kg程度の価格(楽天市場)で取引されているものもあるようです。
いずれにせよ、高純度シリコンといいながらも、手の届く程度の商品といった価格です。
さて問題は、250Wのパネル1枚に、どれだけのシリコンが使われているのかという点です。シリコンのウエハは、厚さが0.2mmとなっているものの、インゴットを薄く切るための糸鋸の太さも0.2mm程度あり、ウエハと同じだけの量が捨てられていると推計してみます。1.6m×1mの広さで、0.2mmの厚さ、シリコンの比重が2.3g/cm3なので、160cm×100cm×0.02cm×2.3≒740gとなります。これと同じ量が廃棄されているとなると、シリコンインゴット1.5kgが使われている計算になります。これは100g700円の牛肉、もとい高純度シリコンの価格で計算すると、13,500円の材料費になります。このシリコンウェハを加工してガラスをつけて、枠をつけてとなると・・・、さっきのパネル16,200円は少し超えてしまいますが、大きな違いではなさそうなので許してください。
さきほどの省エネルギーセンターの推計(16ページ)では、太陽光モジュールの価格が、2017年末には1kWあたり4.1万円程度だったものが、2018年末には2.6万円程度にまで下がるとの推測もあり、まだまだ下がる余地はありそうです。これをみると、250W16,200円というのも、十分な利幅がある価格設定かもしれませんね。
 

新しい装置が使えるようになったいま、どう活用するか

太陽光は発電密度が低いですが、放置しておくだけで、電気を作ることができるという貴重な装置です。しかも単なる消費財ではなく、エネルギーとお金を生み出してくれる装置が、アルミサッシや畳と同じような価格で出回ってきて、電気を高い値段で買っているのは損という時代になりつつあります。RE100を宣言している企業も、石油がいずれ売れなくなると砂漠に太陽光発電を設置し始めたアラブ首長国連邦も、これでエネルギー消費の増加をまかなえると見込む途上国も、この新しい装置の可能性と将来を見ているのでしょう。
太陽光だけですべてのエネルギーをまかなうわけにもいかず、社会の仕組みも大きく変える必要があるのは確かです。ただ、石油を燃やさなくてもすむ社会を作る、そんな大きな転換を引き起こす可能性を見せてくれる装置です。この「おもちゃ」をどう扱うか考えをめぐらし、その動向にしっかり目を向けておく必要があるでしょう。