古民家と言っても、群馬県渋川市の旅籠を移築した上で、3年間住んだ実際の経験が満載されている。古民家が注目される走りとなったもので、めくるページごとに大きく載せられている落ちついた写真が、芸術作品のような雰囲気である。
本来であれば、そうした価値や良さを読み解いていくことが重要なのであろうが、商売がら興味を持ってしまったのは、「古民家ぐらしトラブル奮闘記」といった最後の章である。誤解しないでいただきたいのは、古民家が住みにくいという話題を持ち上げようというのではなく、古民家に住むことの課題や試行錯誤の様子を、ありのままに記録していただいている点に、最大限敬意を表したいという気持ちでいっぱいだということである。出版物ではなかなかできないことであり、こうした記録があるからこそ、古民家を真剣に検討する動きがでてきたのだと思われる。
本筋でないので申し訳ないが、私が興味を持ったのは「天井からの露」で、古民家に限らず起こりうるものだと思われる。
104ページ 古民家ぐらしトラブル奮闘記
冬の古民家が寒いことはわかっていたため、当時としては先進的な複層ガラスを導入するなど、省エネにも配慮がされている。そんな冬のできごとが記述されている。
「母の部屋には炬燵が出され、その上には欅の板がおかれた。今のテーブルと共材で作ってもらったものだ。ところが炬燵に温められ、この板が波打つように反った。(中略)12月に入って、床暖房をした上、エアコンも併用し始めると、事態はさらに悪化。エアコンの風が、居間と和室の八畳間を仕切る古建具の欅の一枚板を直撃、枠と欅の板との間がみるみる開き、亀裂ができる寸前まで沿ってしまったのである」(106ページより)
木材が生きている証拠かもしれないが、冬に暖房をつけると乾燥が激しく、木材が大きく暴れている。著者らはこれらの状況に直面して、エアコンは原則使わないようにし、加湿器を1部屋ずつにおいて「ほとんど四六時中つけっぱなし」にしたという。
このあとに起こったのが、天井から脂入りの粘りのある水滴の発生である。脂自体は古い梁からも染み出してくるもので、問題は結露により水滴が落ちてくるという原因を突き止めることである。通常の水滴でなく、脂が含まれているために被害が大きい。記載から状況を引用してみると、
- 北側の吹き抜け天井から落ちている
- 天気の良い日に限り、日が高く昇るにつれて、これみよがしにぽたぽた落ちる
- 落ちるのは、日が高く昇り始める午前中
- 屋根裏のロフトにある換気口から強制的に空気を外へ出してみたが、ほとんど効果はなかった
- 屋根の棟にあった換気口を大きなものに取り替えたところ、発生が収まった。しかし、いままでとは違う場所で高さ7メートルの吹き抜けからより大量に落下するようになった。
結局、朝起きると同時に、天窓をめいっぱい開け放ち、風を通すことによって、油結露の問題は解決した。朝寒い中での身支度を余儀なくされた。とある。
この原因は何か、なぜ1-5のような状況が起こったのか。
原因はまず間違いなく、加湿器になるだろう。供給された水分が、お風呂の天井から落ちる露のように、そのまま露として落ちてきているのだと思われる。
ただ不思議なのは、なぜ天井に結露するのか。しかも徐々に暖かくなる、晴れた日の午前中なのか、という点である。
通常は暖房で暖まった空気は天井付近に集まり、天井のほうが温度が高くなる。結露が起こるというのは、天井の温度が低くなっているためである。屋根の断熱や気密が十分でない、もしくは床暖房中心で天井まで温まらなかったという理由が考えられる。これは「露が天井からぽたりと背中に、つめてえな、あははん」という歌でも知られている通り、不思議なことではない。
もう一点、徐々に暖かくなる時間帯に、なぜ結露が起こるのかという点である。これは結露は夜中を通じて進んでおり、水滴となるまで成長するのが朝方だと考えると説明がつく。特に晴れた朝は、放射冷却現象により屋根面は温度低下が激しく、結露もより起こりやすくなる。日が照って、しばらくしてからようやく屋根裏面が温まりはじめるこいうことなのであろう。
「要するに寒ささえ我慢すれば、風が簡単且つ安上がりの油結露防止策だったのだ。」 と結論づけて、古民家生活を楽しんでいる様子ではあるが、我慢せずに古民家で快適な暮らしができる方法を探さないと、廃れてしまいかねない。
住んでもいないのに勝手なことは言えないが、加湿器を使わずに板の反りが安定するまで様子をみるか、夜の時点で暖房を控えめにすることで反りを抑えるなど、木材の反りと仲良く暮らしていくのが第一歩かもしれない。あと対応するとしたら、屋根裏まで断熱をしっかりさせて、建物全体として冷たいところがないようにするのも一つの方法である。
昔の家を、今の暮らしで使おうとすると、まだまだ試行錯誤と知恵の蓄積が必要なのかもしれない。