2017年9月25日と26日に、大阪市で、ごみ減量推進員向けの講習会でお話をさせていただきました。そのときの話を整理してみました。その後編です。
(記事が長すぎて1本で書けないので、前後半に分けて掲載しています) 前編はこちら
リサイクルの行き先
日本ではリサイクルへの協力が、定着してきています。さらに協力を求めていくとなると大変かもしれませんが、そのときの説明として有効が方法があります。単に協力してくださいとお願いするのではなく、リサイクル回収されたものが何に生まれ変わっているのかを説明して、意味があることを伝えていくことが有効です。
よくよく考えてみると、リサイクル分別まではして回収に協力しているものの、いったい何に生まれ変わっているのかわからないものも多いかと思います。しっかい意味があるものに活用されていることを知ることは大切です。
まずは「ガラスびん」ですが、これは71%がもういちどガラスびんに生まれ変わっています。そのほかガラス繊維や、路盤材などにも使われており、有効に活用がされています。
アルミ缶はアルミの材料に、スチール缶は鉄の材料に生まれか変わります。質がおちてしまうために、必ずしも缶に戻るというわけではありませんが、貴重な金属資源として、役に立っています。
さて、ペットボトルはどうでしょうか。
本屋の環境コーナーを眺めてみると、いまだに「ペットボトルリサイクルは意味がない」といった内容の本が並んでいますが、そんなことはありません。ペットボトル自体が非常に質の高い材料なので、高値で取引がされており、有用なものに生まれ変わっています。繊維状に伸ばされると衣類の材料の「ポリエステル」になります。またペットボトルシートとして、卵パックなどに使われるものもあります。もとのペットボトルにも戻して使われるものも、一部あります。
何に生まれ変わっているのか心配されるのは、その他プラスチック製容器包装ではないでしょうか。雑多な種類のプラスチックが集まってきますので、あまり品質の高い材料としては使えません。集められたもののうち、製鉄所などのコークスの代わりとして投入されるものが半分、各種のプラスチック製品に生まれ変わるのが半分となっています。
再生先としては、各種プラスチックの材料となる再生樹脂になるのが34.9%、小さな工場などでフォークリフトを使うときに、商品の台座となる「パレット」に32.5%が利用されています。いずれも、いろいろな色がついているプラスチックですから、あまりきれいな色にはならず、茶色や黒など濃い色の目立たない製品が多くなっています。それでも、石油資源から使うのを代替していますので、有用なリサイクルということができます。
このように、分別回収された資源は、工場を通じて新しい製品に多く生まれ変わっており、リサイクルの努力は無駄にはなっていません。ただし、特に容器包装プラスチックについては、リサイクル工場に運び込まれる前に、選別施設でよごれがついたものが取り除かれます。汚れている場合、対象外のプラスチックを混入させた場合には、リサイクルに回らないばかりか、選別の手間になってしまいますので注意してください。汚れも、かるくすすいできれいになるようなら、洗ってリサイクルに出すのが望ましいですが、油汚れなどひどいばあいには、燃やすごみに入れるのが推奨されている場合もあります。
リサイクルだけでいいの?
こちらのマンガを見てください。人々が集まってリサイクル活動をしている様子を風刺したものです。社会を意味している大きなたらいには、トレイや缶などたくさんのものが浮かんでおり、そこからあふれ出てくるのが、いわばごみとして捨てられる分になります。それを小さなバケツで受け止め、ふたたび戻して使おうというのが、いわばリサイクル活動というわけです。
しかしこれではいつまでたっても、あふれ出てくるごみを止めることにはなりません。なぜなら左上の蛇口からどんどんトレイや缶などが注ぎ込まれているからです。
中央下の人が「元栓を閉めた方が早道じゃないか」と呼びかけています。これが、このマンガの要になります。いくらリサイクル活動をしたとしても、元栓を閉めなければあふれ出るのは当然のことで、回収作業が大変になるばかりです。ごみを減らしていくためには、元栓を閉めていくことのほうが重要になります。
ごみを減らそうと考えたときに、わたしたちはリサイクルのことを思いつくことが多いのですが、それよりも入ってくる分、生活でいえば、買い物で気をつけることが大切なのです。
そんなリサイクルよりも優先して考えるべきことがあることを、うまく説明しているのが、「3R」という考え方です。
2000年制定の循環型社会形成推進基本法では、不要なものは買わない・減らすといった意味のリデュース(Reduce)、ビールビンなどを洗ってもう一度使うリユース(Reuse)などが、リサイクル(Recycle)よりも優先順位が高く位置づけられており、これら3つの頭文字をとって「3R」と読んでいます。
リサイクルをするのであれば、びんや缶などを原材料の状態になるまで溶かして整形しなおす必要があり、その工程にたくさんのエネルギーがかかってしまうのです。洗って使うリユースであれば、形はそのまま利用しますので中身を洗うだけのエネルギーですみます。さらに商品それぞれを作るのに必要なエネルギーを考えると、使い終わってリサイクルする以上に、そもそも必要ない場合には買わないほうが、はるかに環境負荷は小さくなります。
リサイクルであれば、廃棄時に分別をする取り組みができるのですが、リデュースやリユースを取り組もうと考えたならば、買い物の段階で考えておく必要がでてきます。この買い物の時に気をつけることが、実はごみ減量を進めていく、とても重要なポイントなのです。
この2つの写真は、同じ分量のすきやきの材料を買ったときの、包装ごみの量を比較したものです。
左は、何も考えずに包装がたくさんついているスーパーで購入した場合、右が買い物袋を持ち歩いて、包装が少ない買い方を工夫した場合です。ごみになる包装の量がまったく違ってくることがわかります。現在では容器包装リサイクル法でプラスチック容器包装もリサイクルに回すことはできますが、製造時のエネルギーはかかりますから、包装そのものが少ないほうがいいことは確かなのです。
さて買い物で取り組む効果はそれだけではありません。自分の出すごみを減らすだけでなく、世の中を変えてしまう力を持っているのです。買い物から社会をかえる「グリーンコンシューマー」という活動があります。
グリーンコンシューマー活動は、環境のことを考えて買い物をすることを強制するものではありません。買い物では、安さ、新鮮さ、便利さなどたくさんの視点で商品を選ぶことになりますが、そこにひとつ「環境」を加えてみませんか、という呼びかけです。いままで環境のことよりも安さを重視して購入してきたのであれば、お店に取ってみれば「値段が安い方が売れているな」と判断して、そのような品揃えを増やします。もしここで市民が環境のことを考えて購入するようになったら、お店にとっては「環境にいいものも売れはじめたぞ」と品揃えを増やすことになります。お店にとっては、売れる物を並べるのは商売の基本です。同じように、生産者も環境にいい商品のほうが売上げがよいとなると、そちらを積極的に作るようになるでしょう。
ごみのリサイクルでは、あくまでも排出時に分別をするだけの選択だったのですが、買い物のときのごみ減量は、お金をお店にわたすことを伴いますから、いわばどのお店、どの商品を買うのか投票をしているようなものです。その投票をお店は真剣に見ていますから、それを通じて社会が変わっていくのです。
だからこそ、リサイクルよりも、買い物の時点の取り組みのほうが効果的なのです。
京都では市民団体が中心となって1990年代より、グリーンコンシューマーガイドブックを何度か発行してきました。たんなる環境啓発の本ではなく、実際にお店を調べて、野菜の包装の程度や、店頭でのリサイクルへの協力、詰め替え商品の販売状況など、どの程度なのかをお店の情報としてまとめたものです。それらを集計して、お店の環境度のランク付けなども行いました。市民に読んでもらい、環境に配慮した買い物をしてもらうことを通じて、お店も環境配慮型に変わってもらいたいと企画したものです。市民への情報提供としても意味があったのですが、それ以外に、評価をしたお店からの問い合わせもありました。文句かなと心配していたのですが、違いました。評価点をあげるためには、どのように工夫したらいいのだろうか、という相談でした。
本当に実現ができるのか
ごみを減らしていくことが大切で、皆で取り組んでいかないといけないということは、だれもが賛成することでしょう。でも自分が取り組むかどうかとなると、別問題になります。
こちらのマンガでも、頭ではわかっているのだけれど、行動が伴わない様子が描かれています。左上では、古紙やびんなどをリサイクルしないといけないとわかっていても、ついごみ袋の中に紛れ込んで出してしまうという頭と体のずれが生じています。左下も、頭では水筒や買い物袋を持ち歩くことが大切なんだと理解していも、つい使い捨てのジュースを買ったり、レジ袋をもらってしまったりしています。
意識があっても、行動が伴わないことが人間には多々あるのです。だから人間はだめだということではありません。こういった性質をもっているのが人間なんだということを踏まえて、ではどうしたら皆で取り組みができるかを考えていくことが大切なのです。
自分自身でも、行動を変えるということは意外と大変なことです。ましては他人の行動を変えるというのは、場合によっては余計なお節介にもなります。「やりなさい」と命令して他人が動くことは決してありません。
けれども、うまく仕組みを作れば、自然とだれもが取り組みできるようになる場合もあります。
こちらは全国のレジ袋の辞退率の変化を示したグラフですが、以前は買い物袋を持って利用する人は1割程度でなかなか広まりがなかったのですが、ここ数年で急激に伸びています。ついに5割以上の人がレジ袋を断るまでに、レジ袋を断る動きが定着してきたのです。
なぜたくさんの人が取り組むようになったかと言えば、スーパー側の協力も大きかったのです。レジ袋を有料とすることで、確実にお客さんのレジ袋を断る率が高くなってきました。実際に有料にしているお店では8割以上の持参率になる場合もあります。
スーパーにとってみると、レジ袋を有料にするというには、お客さんに負担をかけることと思われかねない面があります。お客さんが離れていっては、商売が成り立ちませんので、慎重にならざるを得ません。そこで、店舗や、スーパーの協会、自治体、市民団体などが協力して協定を結ぶなどして、少しずつ仕組みを整えていったのです。
レジ袋有料の制度が定着してくると、自然と大部分の人が買い物袋を持ってくるようになりました。市民にとって、買い物袋を持ち歩くという手間は以前も今もかわりはないのですが、だれでも自然と取り組もうとしてしまう制度によって、変わってきたのです。
実はこのように、難しいと考えられていることでも、時代や状況が変われば当然のことのように受け入れられることも多々あるのです。
さて最後に、自分だけごみ減量に取り組んでも意味がない、感じてしまうことについて考えてみたいと思います。確かに自分のごみの分は削減できたとしても、日本全体で出てくるごみと比較すると微々たる量にしかすぎません。なんとなく、意味のないように思えてしまいますが、決してそんなことはないのです。
ここで、次のような3人組で、ごみ減量の取り組みが進むかどうか考えてみたいと思います。
1人目のAさんは、ちょっと後ろ向きな人です。自分から取り組もうとはしませんが、周りで半分くらいの人が取り組んでいたら、はじめるという人です。どこかで親近感を覚えないでしょうか。周りの様子をみながら、半分程度が取り組んだらするというのは、実はアンケート調査でも日本人に一番多いタイプです。
2人目のBさんは、もっと後ろ向きです。だれか取り組んでいない人が一人でもいたら、約束ごとじゃないんだ、と取り組まない人です。
そして3人目があなたです。
さて、この3人でごみ減量の取り組みが始まるでしょうか?
最初に、あなたがごみ減量に取り組まない場合を考えてみます。たとえば「行政からごみ減量は呼びかけられているけれど、いろいろなものを持ち歩くまでは難しいのでしていません」といった場合、どうなるでしょうか。
ここでBさんの立場で考えてみたいと思います。あなたが取り組みをしていないことを知りました。周りで全員が取り組まないとしないという人ですので、やっていない人を見つけたと言うことで、Bさんは取り組まないことにします。
そしてAさんの立場に立ってみると、Bさんもあなたも取り組んでいませんので、自分からは取り組みはしないということで、だれもやらない状態で終わってしまいます。
さてそれでは、もしあなたが取り組んでいる場合にはどうなるでしょうか。たとえば「行政からはうるさく言われているけれど、実際やってみたら本当にごみが減ってよかった」、といった場合です。
今回はAさんの立場から考えてみます。Bさんが取り組んでいるかどうかはわかりませんが、あなたが取り組んでいることを知りました。自分からは取り組みませんが、周りの2人のうち半分にあたる1人が取り組んでいますので、それではやってみようかと、取り組みをはじめます。
そしてBさんの立場に立ってみると、まわりでAさんもあなたも取り組んでいますので、仕方がない取り組むかと、重い腰をあげて取り組みをはじめます。全員が取り組むことになったのです。
さて、はじめの話と、後の話、結果が大きく違ってきましたが、何が原因で違いが出たのでしょうか。
Aさんも、Bさんもポリシーは一切変えていません。変わったのは、あなたが取り組んだかどうかだけなのです。つまり、あなたの取り組みが、この3人組全員の取り組みを変えてしまったのです。
もちろんこんな理想的な状態がいつも起こるわけではありません。けれどもこうした状況は身近でもよくありうる話です。だれも取り組んでいないことを自分からはじめようというのは、勇気がいることです。けれども、だれか別の人が取り組んでいて「よかったよ」という話を聞くと、少し安心して取り組んでみようかという気になるかもしれません。さらに別の人も取り組んでよかったとなると、背中を押されたような感じになるでしょう。こうして、あなたの取り組みは、それを見ている他の人の後押しになっているのが実態なのです。ですから、自分のごみを減らすだけの効果ではなく、他の人へも大きな影響を与えていると考えてみてください。
ただし、せっかく取り組んでいても、だれにも話さずに密かに取り組んでいる場合には、最初の場合と同じくだれも取り組まない結果になってしまいます。もし取り組んでいるのであれば、世間話程度で構いませんので、ごみ減量に取り組んでいること、取り組んでよかったことなどを話してみてください。すぐには変化が出てくるわけではないかもしれませんが、そうした取り組みの積み重ねで、世の中全体が大きくひっくり返ることも出てきます。
実際に、リサイクルそのものも30年前の時点では、あまり認知されておらず、なんでそんな面倒なことをしないといけないのと反発も大きい状況でした。それが現在では、リサイクルするのは当然の世の中となり、リサイクルできる場所を探して、見つからないと不安になるような状況にまでなっています。
20年30年という時間がたてば、世の中は大きく変わっていきます。そのなこと無理だよと思うようなことも、いずれは当然と思われるようになることもあります。温暖化対策も2050年には、省エネ生活が当然の社会になっているのだと思います。その意味で、ごみ減量の取り組みも、ちょっと難しいかなということでも、ぜひ自分からチャレンジしてみて、世の中に広げて行ってみてください。きっといい方向に、世の中は変わっていくはずです。
みなさんの活躍を楽しみにしています。ご静聴ありがとうございました。