4月24日にtomoさんという方から以下のような質問をいただきました。(質問内容は少しこちらでまとめさせていただきました)
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質問1 原発反対世論ばかりが高まり、地球温暖化問題が置き去りにされてしまうことが懸念されると思います。今後、原発反対世論と地球温暖化問題の両方に立ち 向かうには、国や地方はどのような政策をとるべきでしょうか?
質問2 ドイツ連邦政府は、確か2020年までに、8割の電力を、自然エネルギーで賄おうとする計画を策定してなかったでしょうか?なぜドイツではそんなことができるのでしょう?
質問3自然エネルギーを日本で普及させていくには以下の点で課題があると思っています。一言で言うとカネと技術不足でしょうか。
・太陽光発電 電力供給量の割にコストがかかる、天気に左右される
・風力発電 日本の技術力不足、騒音問題の誘発、景観の悪化の懸念、風の強さに左右される
・水力発電 環境破壊につながる、コスト高い あ、でも小規模水力発電ならそんな問題は解消される?
こうした問題をドイツはクリアできたのかな?
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以上の質問をいただいたので、私のわかる範囲でお答えしたいと思います。
なお、以下のコラムでの木村の回答内容は、木村個人のものであり、弊社は関知するものではありません。
質問1について
そもそも、原発反対世論に立ち向かう必要を私個人は感じませんし、温暖化対策と矛盾するものだとは思いません。火力発電所がCO2という温室効果ガスを排するのと同様に、原発は放射性廃棄物というとんでもない毒物を排出し、人類と環境にとって大きな被害をもたらします。両方とも減らしていくべきです。
地球温暖化対策と脱原発を両立させるためには、まずは効率的な電気利用機器を導入し、無駄なエネルギー消費を減らすというのが大原則です。その上で、どうしても必要なエネルギーを、温室効果ガス排出が比較的少なく、放射性物質も出さないエネルギーで、まかなうというのが筋だと考えます。国がとるべき具体的な政策は質問2への回答に示しています。
質問2について
ドイツでは政府が電力に占める再生可能エネルギーの割合を2020年に30%、2050年までに80%とする目標を立てているそうです。私は、日本とドイツとの違いは、政治的な意思に大きな差があることと、同時に、それに裏打ちされた制度の存在の有無が大きな要因ではないかと考えています。
政治的意思の違い
ドイツでは、福島原子力発電所事故を契機に、国民的に反原発の声が高まり、保守勢力の牙城であるバーデン・ビュルテンベルク州の州議会選挙で、緑の党が24・2%を得票し、大躍進したのは象徴的です。一方で、日本の統一地方選挙では、どうだったでしょうか。全体的な動向はわかりませんが、原発立地地域では軒並み「推進派」が当選したようです。こうしたことを見れば、日本における自然エネルギーに対する政治的意思が極めて弱いということも推察することができるのではないでしょうか。
制度の存在
ドイツでは、環境税を導入し、またEUの排出量取引制度にも参加しており、経済全体の脱温暖化を進める枠組みを有しています。また、自然エネルギー普及においては、固定価格買取制度(通称FIT)と呼ばれる制度を導入しており、自然エネルギーから発電された電力をその発電コスト相当額で買い取ることで、事業の安定性を保証し、自然エネルギーへの投資を呼び込んでいます。
日本では、これまで環境税も排出量取引も、固定価格買取制度も導入してきませんでした。替わりにRPS制度という、電力会社に一定量の自然エネルギーを利用する義務を課していますが、その割合は1%と大変低いものです。放射性廃棄物を処理するのに19兆円かけることは是認していても、包括的な温暖化対策や自然エネルギーと省エネの推進には消極的だったのがこれまでの日本の政策の実態です。
質問3について
どんなエネルギー源でもメリットとデメリットがあります。課題がまったくない夢のエネルギー源などありません。それぞれのメリットとデメリットを比較し、組み合わせながら、社会的に望ましいエネルギー供給構造を再構築することが求められると思います。ですから、自然エネルギーや省エネのデメリットと原子力のデメリットを比較し、どちらのデメリットを許容できるか、ではないでしょうか。
ちなみに、tomoさんが挙げている各自然エネルギーの課題は、日本だろうがドイツだろうが基本的に変わるものではありません。ただドイツは、自然エネルギー産業が社会的に有益でありながらまだ未成熟なので、一定期間は政策的に下支えする必要があるという考え方なのではないかと推察します。そして、産業として成長させることで、技術開発や生産性も上がり、結果としてコストが下がり、中長期的には有益だということです。
実は、これはドイツに限らず英国、フランスなどの欧州主要国、そして米国、中国、インドなど世界では常識的な考え方になっています。実際、米国や欧州では、風力発電が爆発的に導入されることで、その発電コストは、火力発電に匹敵するところまで下がってきています。